顧客を絞らねばならない理由

 「強み」とともに、経営の2大要素として重視すべきなのは当然ながら「顧客」です。業績を上げていくために、最初に見直すべきことの一つが顧客を絞るということです。当社の行うコンサルティングでは、その必要があると判断した場合には、次のような考え方に基づき、業績向上に直結する顧客の絞り込みをご提案しております。(当社のコンサルティングには「強制的にやらせる」プログラムはありません。すべてあなたの会社で必要とご判断いただいた上で実施していただきます)

 ではなぜ顧客を絞らないといけないのでしょうか。それは今の世の中がモノ余りで過当競争の飽和状態にあるからです。しかもその飽和市場においてライバルも必死に頑張っています。お客様も大量の情報に囲まれてうんざりしているところへ、顧客対象が特定されていない万人向けの情報を出したとしてもなかなか反応してもらえません。わかりやすい事例として、たとえばものすごくおいしい缶コーヒーを開発したとします。しかし競合品が市場に溢れているので、今時おいしいというだけではなかなか興味を示してもらえません。そこで「朝専用缶コーヒー」のように思い切ったターゲットの絞り込みをすることでようやく顧客が反応してくれるようになるわけです。私たちはつい「この技術はあれにもこれにも適用できます」と言いたくなってしまいますが、そこをいかに我慢できるか。対象を拡げれば拡げるほど、それぞれの顧客の関心が薄まってしまい“刺さりにくく”なってしまうのです。しかしたいていの会社は、新規開拓をしようとする場合に一社でも多く顧客を獲得しようとする際に、どうしても対象とする顧客の間口を広げすぎてしまう傾向があります。効果的な顧客開拓をするためには、むしろ間口(属性)はかなり思い切って絞り込む必要があります。

 なお誤解のないように申し上げておきますが、顧客を絞れと言っているのは、まずは新規顧客開拓の場合においてです。いきなり既存顧客を絞ることにまで手をつけよと言っているわけではありません。

顧客の絞り方

 ではどのような考えに基づいて顧客対象を絞ればよいのでしょうか。これまでクライアント企業とともに実践で取り組んできた効果的な方法をご紹介したいと思います。

 従来の発想では顧客の絞り込みというと、業種業態、売上規模、企業規模、地域、成長性、販売余地可能性・・・このような情報で判断されるのが一般的だと思います。もちろんそれらが間違っているというわけではありません。しかしとりわけ市場全体の成長が期待できない厳しい時代において、そのような切り口で顧客を選定してみてもあまり効果的ではありません。

 実は、そうした要素以外にとても大事な要素があります。それは企業としての考え方です。この企業としての〝考え方が大事〟というのは私のオリジナルでも何でもありません。新規顧客と取引すべきかどうかを考える場合に、多くの会社がその要素で実際に判断しているものです。たとえば本当にその会社と取引すべきかどうかを決断するために、その会社の経営者と実際に話をして考え方を掴もうとしたり、あるいは工場見学をして現場の雰囲気をチェックされているはずです。つまり実務的に、それぞれの企業の考え方、あるいはそれが反映されているであろう現場を見て大事な取引の判断をしているものなのです。

 特に製造業であれば、モノヅクリへの姿勢、仕入れ先に対する姿勢、お客様と向き合う姿勢などはとても重要なはずです。そして有能な経営者ほど、そうした考え方そのものを重要視するものです。

 「考え方」で経営するということでは、いわゆるダイエー・松下戦争が思い起こされます。その詳細はここでは触れませんが、高度成長期の只中において、ダイエーの信念である「良い品をどんどん安く消費者に提供する」と、松下幸之助氏の「定価販売(小売希望価格)でメーカー・小売りが適正利潤を上げることが社会の繁栄につながる」との信念が真っ向からぶつかりました。松下氏、中内氏いずれが正しいかという話ではありません。まさに両者の理念、信念の激しいぶつかりあい。売上数字だけを考えれば、両社はそこはさておき取引すべきだったかもしれませんが、彼らは妥協しませんでした。そこが、それぞれの経営者にとって簡単には譲れない考え方だったからなのでしょう。

 さておきこのように重要な「考え方」ではありますが、数値化などで「見える化」することが難しいために、従来のマーケティング視点ではしっかりと焦点を当てられてこなかったように思います。しかし私たちが取引先を選定する際に最も重要なことは、今の時代であるからこそ、なおさら企業としての「考え方」を重視することです。それぞれの企業がどのような考え方によって運営されているか、ここをしっかりと見極めて付き合うべきであり、その点を重視して顧客の絞り込みをすべきと考えます。

 ではその見える化しにくい顧客の考え方に焦点を当てながら顧客を絞り込むにはどうすればよいのでしょうか。そのために私は、顧客の「考え方との合致度」と、従来の視点を掛け合わせて顧客を絞り込むための方法を考案しました。それが次の図となりますが、これを「パートナー顧客ポートフォリオ」と名付けています。

実際にはコンサルティングを行う中でこのポートフォリオを使っていくわけですが、読んですぐに使えるというのであれば、当社にコンサルティングを依頼せずに済むことですので、ここでこの図の使い方の概要をご説明しておきます。

 まず「考え方=マインド合致度」を縦軸にとります。マインド合致度の高い顧客、すなわち会社としての考え方の合致度が高い顧客が上の方に来ます。

そしてポートフォリオの横軸には取引規模などの経済的な尺度をとります。つまり経済的な価値が大きい顧客ほど右側に来ます。もちろん私たちはビジネスをしているのであり、このような側面も当然ながら重要な視点です。つまり「考え方」と「経済的価値」という二つの要素をハイブリッドさせて顧客を絞り込んでみようというわけです。

 この図の中にそれぞれの顧客を実際に配置(プロット)していきます。そして縦横2軸の要素がともに高くなる顧客企業、つまり考え方も合致し、経済的価値も大きい顧客が、あなたの会社にとって最重要顧客となるわけです。ちなみにこの位置付けに来る顧客を「パートナー顧客」と呼ぶことにしました。その意味は、単なる売り買いだけの関係ではなく、ともに成長発展する信頼できる仲間としての顧客ということです。

 さて縦軸であるマインド合致度=考え方として、具体的にどのようなものを重視すればよいのでしょうか。もちろんそれは企業それぞれで異なってくるわけですが、少し事例を挙げながら考えてみましょう。

考え方による顧客絞り込みの事例

 ある機械装置メーカーでは、「本物の技術力を研鑽する気概のある顧客」との取引を重視しようと決めました。考え方としてそこは譲れないところだということです。本物の技術力とはどういうものを意味するのかが気になるとは思いますが、それはこの会社の経営者が日頃から言い続けていたことでした。だから従業員もそれが何を意味するのかをしっかりと掴んでいましたので、あえて詳しく説明するまでもなく、「じゃあ、A社さんはどのあたりに配置できそう?」などと話し合いながら、従業員の同意を得ながらすんなりとこの図の中に顧客を配置していくことができました。もちろん数値化できるものではないので恣意的な判断にならざるを得ませんが、それでも大きく判断がずれるようなことはありませんでした。むしろ経営者も従業員もなんとなくは分かっていた自社にとっての大事なお客様が、この図に配置することで見える化したわけです。

 また別のある試作メーカーにおいては、顧客と共有すべき大事な考え方として、「発注先をパートナーとして大事にするかどうか」という点を重視しようと決めました。確かにメーカー同士としてそれはとても大事なポイントになると思われます。そしてその会社ではそれだけではまだちょっと抽象的であり実際の分類がやりにくいと考え、もう少し具体的な視点を持てないかと考えました。その結果、その会社が設定したより具体的な考え方の尺度は、「試作費をきちんと支払ってくる会社かどうか」となりました。あまり信じたくはありませんが、試作費をケチろうとする発注主も実際にあったようです。しかし開発が大事だと本気で考えている顧客は、それにかかる予算もきちんととっており適正な支払いをしてくれます。そこでこの会社では、パートナー顧客かどうかは支払いの良し悪しで判断できるだろうとなったわけです。これも一つの考え方だと思います。企業の考え方というものは、なにがしかの具体的な行動(この場合は支払の良し悪し)として現れているものです。事象として何が現れるかを考えてこの会社のような尺度を設定してみるというのも面白いかもしれません。

これらの事例のように考えて頂きながら、あなたの会社に相応しい尺度を考えて頂きたいと思います。

 ところでこのポートフォリオの右下に配置される顧客、すなわち〝売上規模はあるものの、考え方が合致しない顧客〟との今後のお付き合いはどのように考えればよいでしょうか。ここに位置付けられる顧客としては例えば、顧客から見れば私たちは、仕事が忙しいときのオーバーフロー分だけを回す単なる便利屋というだけかもしれません。その顧客にいくら頑張って営業しても良い条件の仕事がもらえないのだとしたら、営業マンの行動をどう指示すべきかは自ずと見えてくるはずです。そのような関係性の顧客に対しエネルギーの比重を大きくかけることは経営的なリスクでもあります。しかし単に売上高だけで顧客を見ていると、営業マンをそこに足繁く通わせてしまうかもしれません。何も取引を切れということではありません。付き合い方や営業体制をかえて「それなりのお付き合い」を維持すればよいはずです。ただし顧客側で部門長や社長が交代すると考え方や方針が大きく変わる可能性もあるので、取引がある以上は“大人の付き合い”を続けてそのようなチャンスを待つということもひとつの選択肢だと思います。

顧客絞り込みの効果

 さて実際に「考え方」を重視して顧客を絞り込んだことによる効果についてお話を進めたいと思います。まずは食品機械メーカーの事例です。小売業が主な顧客となっています。これまでそのメーカーは、それぞれのお店の売上規模や地域などで顧客を区分して営業していたのですが、どうも業績が伸びません。そこでさきほどのパートナー顧客ポートフォリオを使って顧客を捉え直してみようということになりました。

 このメーカーでは考え方として、「新しい技術への取り組み熱意の強弱」、「いかに実際に機械を扱う現場スタッフの意見を重視するか」といった面を重視することになりました。そして顧客を実際に分類してみると「パートナー顧客」には今後発展しそうなお店が明確に区分でき、それは社員がなんとなく肌で感じていた感覚ともおおむね一致したそうです。その後このメーカーでは、新製品の投入時にはまず「パートナー顧客」に対して先に説明に出向くように営業方法を組み替えました。そうすることで打てば響くと言いますか、最初から熱心な反応を示してもらえるので営業マンも従来よりも意欲的にPRができるようになり、新製品の売り上げの立ち上がりが従来の約2倍になったそうです。

 もう一つ事例をお話しましょう。あるメーカーでは顧客が古い市場に属しており、営業マンが新しい提案をしてもなかなか採用してもらえない状況にありました。時には顧客の役員レベルとの商談においても、「うちの業界は大きな成長もなければ下振れもない。何をやったとしても、それほど売上に影響がなく非常に安定している。だから特に新しいことをやるつもりはない。」と、にべもなく断られることもあったそうです。ではすべてのお客様がそのような考え方なのかというと、決してそうでもありません。別の顧客に同じ提案をしてみたところ、「面白い企画ですね!会社をあげて取り組みます。」と大乗り気で、とんとん拍子で取引が実現したというケースもあります。ちなみにその意欲的な顧客は、実はその業界のトップ企業だそうです。古い業界の中でもいろいろとチャレンジしているからこそ、その顧客は業界のトップであり続けているのかもしれません。そしてこのように考え方や企業姿勢というものは、たとえ同業者であろうとも決定的な違いがあることもしばしばであり、それが実際の取引にも大きく影響してくる可能性があります。そこでこのメーカーでは、改めて顧客を「チャレンジ精神の有無」という視点で分類してみることにしました。分類のための基準をもう少し具体化させて「新製品の投入数」という切り口にしてみたところ、安定した業界の中でこれまでなかなか見えていなかった顧客の質的な違いを鮮明化できるようになりました。それ以降、どのような顧客に営業の重点を置いたかは言うまでもないと思いますが、古い業界において他社が苦戦している中でもこの会社は着実な成長を続けることができています。

 以上事例も踏まえながらお話をしてきました。これらはあくまでも他社の例ですので、あなたの会社にふさわしい顧客分類の切り口を見出して頂きたいと思います。

 ところで顧客を絞り込むということは、言い換えると「客筋をよくする」ということでもあります。これは古今東西、変わらぬ商売の鉄則です。客筋が悪いと、すぐに価格の話になる、ちょっと問題があるとすぐにクレームになる、関係性が短期的・短絡的で良い仕事をしてもその場限りで継続性が低い、ともかく秘密が多い、そもそも信頼関係が築きにくいなど様々な問題が生じます。その一方で客筋が良いと、一緒に成長しようとこちらを育てようとしてくれる、長い視点での付き合いを重視する、基本的な信頼関係に基づく取引ができるなどの効果が期待できるわけです。

 また実際に取引先を大切にしてくれる会社は、その会社もお客様から大切にされていることが多かったりと、そこには良い循環が生まれていたりします。どうせならば、私たちもそちらの良い循環の中に入りたいものです。

ということで、ぜひあなたの会社でも「考え方」を重視して顧客を捉えなおしてみてください。

 この時代、行く先を間違えていては成果を出すのは容易なことではありません。本当に重要な顧客に絞り込んで営業をすることで、その結果がどのように変わっていくかをぜひあなたの会社でも実感して頂きたいと思います。

 以上、顧客対象の絞り込みについてご説明致しました。すでに述べましたように、ここに書いた内容を基にあなたの会社で絞り込みを実践できるようであれば、ぜひすぐにでも取り組んでください。そして、当社のコンサルティングが必要と感じられた場合には、まずはお気軽にお声がけ頂ければ幸いです。