一般的に営業マンは売上のノルマであるとか自社の事情を優先してしまいがちで、お客様がそれを本当に必要としているかどうかには目をつむって売りつけてしまう傾向を持っています。さらに言えば多くの営業マンは、買ってくれさえすれば相手は誰でも良かったりします。下手をすると相手のお客様の名前すら言えなかったり、そのお客様が何を作っているかもちゃんとわかっていなかったりと、お客様ときちんと向き合っていない場合もあります。

そしてお客様は、そうした営業マンとのやり取りにうんざりしています。売り込まれるのを警戒し、ガードを固くし、様子を見ようとします。私たちもそのような営業マンと同じと判断されてしまったら、そこでおしまいです。だからこそそうならないように慎重に関係を築かねばならないのです。そして不思議に思われるかもしれませんが、「売り込むのをやめたら、売れるようになった。」という話はよく聞くことです。

とはいえ「売り込むな」と言われると、じゃあどうすればよいのかとなるわけですが、売り込まないイコール、積極的にアプローチしないということではありません。ここを勘違いしている人が多いように思います。では売り込みはしないのに、積極的なアプローチをするにはどうすればよいのでしょうか。その具体的なやり方については、実践編を参考にしてください。

営業の極意としてもうひとつ付け加えるとすれば、それは「お願いするな」です。普通の営業マンは、実に簡単にお願いをしてしまいます。簡単にお願いするから、本来対等であるべきお客様とのポジションを勝手に自ら貶めてしまうのです。もちろん偉そうにしろと言っているのではありませんが、もっと堂々と、自信を持って立ち振る舞うことで、むしろきちんとした製品やサービスを提供してくれるという期待をお客様に与えるべきなのです。簡単に値引き要求をされて苦しんでいる営業マンは、もしかすると自分の側に問題があるのかもしれません。

ここを鍛えるために面白い訓練方法があります。「お願い禁止週間」の実施です。営業マンがお客様に対し、「お願いします」と言うのをNGワードとして禁止するのです。これを実際にやってみると本当に困ります。つい、「もうやめましょう」と思わずお願いしたくなってしまいます。私たちは日常的に、それほど簡単に安っぽくお願いを連発しているのです。それをどのように言い換えるかを考え抜いて頂きたいと思います。それが営業力を高めるためのとても良い訓練になります。

では実際にお願いをやめるとどうなるか。一つ事例をご紹介しましょう。私は製造業以外からもご相談を受けることがあるのですが、時にはNPO法人からも相談を受けたりもします。その場合のテーマはたいてい、「寄付が集まらなくて困っている」です。そこで私は次のように質問してみます。「もしかして、寄付をお願いしていませんか?」と。そして「お願いするから寄付が集まらないのではないですか?」と聞いてみます。

そう言うと間違いなく相手の方はきょとんとされます。ではこの場合はどうすればよいのでしょうか。そのお手本のような事例がWWF(世界自然保護基金)のホームページにあります。普通であれば「寄付のお願い」と言ってしまうところを、彼らは、「あなたができること」としています。素晴らしい〝営業センス〟です。お願いせずに、もちろん脅したり命令したりもせずに、こちらが求める行動を相手に起こしてもらえる言葉を選んでいます。このポジションの取り方は一般企業にとっても、とても参考になるのではないでしょうか。このWWFの一文を紹介できただけでも、この本を書いた意味があるのではないかと思うくらいです。

 さておきここで申し上げた「売り込むな」、「お願いするな」とは、言い換えればお客様ときちんと向き合ってくださいということに尽きるのだと思います。