「情動」とは心理学用語で、急激な感情の変化、またそれに伴う身体的変化、行動への変化のことを言います。英語でいえばemotion(エモーション)でしょうか。ここでは「気持ちを強く動かすこと。」くらいの意味で捉えて頂ければと思います。

そしてこの「情動」は、とりわけ新規開拓の際など人を動かすのに大きなエネルギーが必要な場合において効果を発揮します。実際、ビジネスのやり取りにおいても人は単に損得勘定だけで動くわけではありません。だからこそ相手の〝気持ちを動かす〟働きかけがものすごく重要になるわけです。このことは優秀な営業マンは十分に気づいていることなのですが、意外とこのことが分かっていない営業マンが少なくありませんのでここで少し触れておきたいと思います。

「情動」が巧みだったのが、スティーブ=ジョブズです。彼のプレゼンテーションについてはいまさら語るまでもありませんが、たとえば薄型PCの発表時に手に持った封筒から取り出してみせて聴衆を熱狂させました。単に製品の特長を説明しただけではああいうことにはなりません。相手の気持ちを動かすことの大事さを分かって仕掛けることで、相手への印象の深さ、染み込み方が全く違ってきます。あるいは日本人でも「情動」例を挙げるとすれば、北条政子でしょうか。彼女の演説は鎌倉の御家人たちの心を強く突き動かし、鎌倉方が承久の乱に勝利する原動力となったと言われています。教科書にも原文が載っているはずですので、忘れたという方はこの機会にぜひ復習してみてください。世界史的に見ても名演説だと思います。

話を現代に戻しますが、本当にびっくりするくらい人間は自分が関心のないこと(気づいていないこと)への認知力は低いのです。ある企業では、素晴らしいデータが得られたのでそれを展示会でグラフにして掲示しました。相当自信を持っていたのですが、しかし思ったような反応が得られません。相手も技術者なのだから数字を見ればわかってくれるだろうと思ったのですがそれは間違いでした。ちなみにこのケースでは、実験の様子を映像で見せることで「おっ!」と相手の気持ちを動かすことができることが分かったので、その映像を活用するように変更してもらいました。相手が理系の技術者であろうが、やはり相手の気持ちを動かす仕掛けが必要だということです。

もちろん「情動」の効果は、プレゼンテーション以外の様々な営業場面でも活かすべきものです。たとえば新規開拓で実績をあげられる営業マンは、見積依頼を受けたとすると驚くほど素早くレスポンスします。なぜなら彼らは、そのスピード感のある対応が相手の気持ちを動かすために効果的であることを知っているからです。

 また以前お会いしたある経営者は下請け業者への支払いを請求書が届いたらすぐに済ませると言っていました。資金繰りが苦しいのはお互い分かっています。だからこそ支払いを早く済ますように心がけているのだそうです。それを続けていたら結果的に、別に単価的に優遇しなくても優良な業者が集まってきてくれるようになったそうです。恥ずかしながら私は、支払いとは期日通りに払えばそれで十分だとしか考えたことがなかったので、この経営者から相手の気持ちを動かすことの大切さを改めて学ばせて頂きました。

では、この「情動」の効果を日常的な営業場面で発揮できるようにするにはどうすればよいのでしょうか。大事なコツは何か大事な行動を起こす時に「これで相手の気持ちを動かすことができるのか?」と考えてみることです。

さらにそれは、お客様から「すごい」と言われるかどうか? と考えてみることです。

相手が喜んでくださる、感謝してくださるというのは、いわばプロとして当たり前のレベルです。そこで満足するのではなく、「すごいですね!」とお客様から言われるかどうか。プロの仕事の指標はここに置くべきだと考えます。

あなたの仕事は、お客様から「すごい」と言われたことがあるでしょうか。現実的な話をすると、そう言われるかどうかの違いが、利益を確保できるかどうかの大きな違いになるともいえるのです。

そして「すごい」と言われるかどうかを仕事の基準として考えられるようになると、具体的な行動が変わってきます。たとえばお客様から指定された納期よりも一日早く納めよう!といった感じにです。そのようにお客様の期待や想定を上回る仕事をすることを心がけるようになることで、お客様からも一目置いて頂けるようになってきます。

もちろん四六時中それをやれというのではありません。ここぞという勝負所でそれができるかどうかが大事なのです。そしてしばしば新規開拓の場面ではその機会が訪れるわけです。